・貸借対照表(B/S)とは何か
・損益計算書(P/L)とは何か
・会計クイズで企業を知る
ごきげんよう、ペーパー先生です。
今日は、決算書をクイズと会話形式で読み解いていくビジネス書の人気作『世界一楽しい決算書の読み方』をご紹介します。
投資をされている方は、個別企業の決算書に目を通される方もいらっしゃるかと思います。もちろん、お勤めの企業先で決算発表に何らかの形で関わられている方もいらっしゃるでしょう。
ぼくも、広報パーソンとして決算発表会に出席し、報道機関の対応を行っていました。ただ、それでも隅々まで決算書を読み込んで完璧に中身を理解をしていたかというと、実はそうでもありません。
決算資料はこうした内容のものです。
これはトヨタ自動車が今年8月4日に発表した決算資料の一部を紹介したものですが、数字の羅列がもうこれでもかと数ページにわたって記載されています。
普段、数字を扱わない方であれば一目見た瞬間に卒倒しそうですが、この情報の中に企業活動のあらゆる情報がギュッと凝縮されているので、読み解くことができればより深く正しくその企業を知ることができます。
本書はそうした人に向けた入門書として、とても敷居が低く楽しめる内容となっています。ぼくもコロナ禍で在宅の時間が増えたこともあり、改めて基礎から学び直そうとして手に取りました。
今日は、その内容の一部をどこよりもやわらかく要約してお届けしたいと思います。
では早速いってみましょう!
『世界一楽しい決算書の読み方』の概要
本書はツイッターで10万人のフォロワーを抱える公認会計士、大手町のランダムウォーカーさん(@OTE_WALK)が執筆しています。
同氏は、公認会計士試験を合格後、大手監査法人勤務を経て独立され、現在は企業研修やコンサルティング業務などを行われていますが、なんと驚くことに公認会計士資格を取得したときには、財務諸表がまったく読めない状態だったそうです。
その著者が、会計などの基礎知識がある人だけでなく、より幅広い方に興味を持ってもらう、参加して学んでもらうことを目的に、数値の特徴から会社の違いを知ることができるようなクイズ形式の問題を、ツイッターで情報発信をし始めた活動が、本書のベースとなっています。
なお、財務諸表とは、一般的に決算書と言われる書類のうち、金融商品取引法で上場企業などに作成が義務付けられているものを指します。こちらは、また後ほど詳しく紹介をしていきます。
学びのやり方にはさまざまあります。学習教材として、架空企業の決算書について、どこに何かが書いてあるのか、決算書の読み方を1つ1つ紐解いていくようなやり方もありますが、これだとその会社の背景にあるストーリーがまったく存在しないので、身体に入ってこないですし何よりも面白くありません。
しっかりと身に付けていくためには、面白く学ぶ必要がある。そのためには、本物の決算書を使った勉強が早道だということです。目には目を、歯には歯を、決算書に強くなるためには決算書を読む、ですね。
本書の全体構成について
本書の全体的な流れは以下のようになっています。
チャプター0:決算書の全体像って?
チャプター1:貸借対照表(B/S)ってどんなもの?
チャプター2:損益計算書(P/L)ってどんなもの?
チャプター3:キャッシュ・フロー計算書(C/S)ってどんなもの?
チャプター4:B/S +P/Lの複合問題に挑め!
今回はこの中から、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)の基礎、そして本書の特徴を掴んでいただくために会計クイズをいくつか出題していきます。楽しく決算書を読むというのはこういうことか!と分かっていただけるのではないかと思います。
そもそも決算書とは何か?
決算書は年に4回開示されます。年度が4月スタートの企業の場合は以下のようになります。
04-06月:第1四半期
07-09月:第2四半期
10-12月:第3四半期
01-03月:第4四半期(本決算)
そして3か月を1つの区切りにして「四半期(しはんき)」と呼びます。「クォーター(quarter)」の頭文字から、第1四半期を1Q、第2四半期を2Qと呼ばれることもあります。12か月で4回、事業の進捗をまとめた上で決算発表を行い、4回目つまり1年間の総成績が「本決算(ほんけっさん)」となります。本決算の時期は企業により様々。一般的には4月開始・3月終了を会計年度としているところが多いです。
決算書は人間で言うと健康診断の結果通知とも言えます。健康診断では、身長や体重・視力・血圧など様々な検査結果が前年との比較で通知されますが、まさにこれの企業版。企業がどのぐらい稼いでいるのか、支出はいくらあったのか、課題はないのか、などを読み取るための資料です。
・どのぐらい稼いでいるのか?
・どのぐらい成長するのか?
・倒産する可能性はないのか?
株式会社、つまり株式を公開している企業は、資金を外部から調達することを意味しますので、投資家や銀行などに対し、会社のお金にまつわるあらゆる報告の提出が義務化されています。そこで利用されているのが決算書になるわけです。
会社
├→株主(投資をする)
├→銀行(出資をする)
└→監査法人(監査をする)
この決算書。書式がバラバラだと過去業績や同業他社との比較がしづらいですよね。そのため会計に一定の基準が設けられています。それが以下です。日本企業は必ずしも日本会計基準にする必要はなく、この4種類から任意で選ぶことになります。
・日本会計基準
・米国会計基準
・国際会計基準 / IFRS(あいふぁーす)
・J-IFRS(じぇいあいふぁーす)
最後に、決算書を読んでいく上で重要となる「3種の神器」を紹介します。冒頭でも触れましたがこれらは財務諸表と呼び、中でも以下の3つをまとめて「財務三表」(ざいむさんぴょう)といいます。
・貸借対照表(Balance Sheet・B/S・びーえす)
・損益計算書(Profit and Loss Statement・P/L・ぴーえる)
・キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement・C/F・しーえふ)
B/Sは何を持っているか、P/Lはどのぐらい稼いでいるか、C/Fはどのようなお金の流れか。企業を多角的に捉えるためのこの3種の神器は密接な繫がりがあります。
ということで、決算書を読むための事前知識は以上です。
B/S:小売り3社のビジネスモデル
まずは貸借対照表(B/S)の見方からご紹介します。
先ほどご紹介したトヨタ自動車の決算資料は数字の羅列でしたが、それを端的に表すとこのような見方をすることができます。B/Sでは、右側がどうやってお金を集めたか、左側はそのお金がどのように使われ、何になっているかを示しています。左右2つのボックスはそれぞれ同じ額になるというわけです。
左側の資産の部には現金や建物などが入ります。また、これら資産は短期と長期に分けられます。短期資産は、お金もしくはすぐにお金に替えられるもの、長期資産は、すぐにはお金に替えられないものを表します。右側の負債の部も短期と長期があります。
固定資産よりも流動資産が多い方が、そして長期負債よりも短期負債が少ない方が安全運転の企業だと見ることもできます。なお、資産から負債を除いた額が純資産となるわけですが、純資産の占める比率が自己資本比率です。この数値が高い方が健全性が高いということも付け加えておきます。
さて基礎知識はここまでにして、会計クイズにいきたいと思います。今回の登場企業は以下です。
●ニトリHD
業界では珍しい製造小売業(SPA)を取り入れ、一代で家具小売業界の最大手に。
●ファーストリテイリング
衣料小売業の最大手。「ユニクロ」「GU」などのブランドを展開。
●良品計画
「無印良品」「MUJI」ブランドの家具や衣料品、雑貨等を展開。
Q:ニトリHDの貸借対照表(B/S)はどれでしょう?
・①は固定資産と純資産が小さい。
・②は固定資産と純資産が大きい。
・③は②と比べ流動資産が大きく、固定資産が小さい。
こんなことが挙げられます。それぞれのビジネスモデルの違いが、B/Sにどのように現れるのかを推察していくのが、本書の特徴であるこの会計クイズです。
では正解にいきましょう。ニトリHDは②でした!①がファーストリテイリング、③が良品計画です。
・郊外店舗が中心で一店舗あたりの売り場面積が広い。
・顧客が買った商品を家まで配達する物流を持っている。
・商品は自社で製造し在庫を倉庫で保管している。
このように、店舗・倉庫・工場を全て持っているのはニトリHDだけ。他の2社は提携企業でカバーをしています。つまり、資産の部からは、設備類である固定資産が非常に大きくなるというのが特徴になるわけです。
また、②と③を絞りむのにあたっては、純資産の大きさが挙げられます。ニトリHDは35期連続増収増益という驚異的な成長を続けることで、純資産が他社と比べてもとても厚くなっていることが分かります。
このように、一見するとなんてことない内訳を記したB/Sですが、企業ごとのビジネスモデルの違いを読み取ることができるわけです。
P/L:小売チェーン3社のビジネスモデル
続いては損益計算書(P/L)を見ていきましょう。まずは概要からです。
さきほどのB/Sと似たような図ですが、中身が違います。右側は「貸方(かしかた)」で収益をまとめるところ、左側は「借方(かりかた)」で費用をまとめるところです。P/Lの場合も、左右の額は一致するようになっています。
ざっくりまとめるとP/Lというのは「収益」「費用」「利益(損失)」の3要素で構成されているわけです。もう1つ補足をしておくと、P/Lには5つの利益があります。売上高を軸に、周辺経費を5段階で差し引いていくことで利益を確認していきましょう。
⓪売上高=商品・サービスの対価
商品・サービスを提供した対価として得たお金です。費用を引く前の状態です。
①売上総利益=「⓪売上高」-「売上原価」
商品・サービスを作るため、必要な部材やその仕入れなどにかかる費用を「原価」と呼びます。これを差し引いたものが「①売上総利益」です。”商品・サービス力”を示す指標です。
②営業利益=「①売上総利益」-「販売管理費」
商品・サービスを提供する際、かかった人件費や賃料などを「販売管理費」と呼びます。これを差し引いたものが「②営業利益」です。”本業で稼ぐ力”を示す指標です。
③経常利益=「②営業利益」-「営業外損益」
預金や借入の利息、グループ企業で発生する費用を「営業外損益」と呼びます。これを差し引いたものが「③経常利益」です。”利益を生む力”を示す指標です。
④税引前当期純利益=「③経常利益」-「特別損益」
株式売買や災害による被害で一時的に発生した損失・利益を「特別損益」と呼びます。これを差し引いたものが「④税引前当期純利益」です。
⑤当期純利益=「④税引前当期純利益」-「税金」
法人税を始めとした国や地方自治体に収める必要のある「税金」を差し引いたものが「⑤当期純利益」です。
この5段階で利益を見えていくことで、経営効率を知ることができます。さて、基礎知識はここまでにして、会計クイズです!今回の登場企業は以下です。
●ブックオフグループHD
中古品を顧客から買い取り店頭やネットショップで販売。
●セブン-イレブン・ジャパン
店舗数日本一のコンビニチェーン。
●キャンドゥ
生活雑貨や食品などを販売する100円均一チェーン。
Q:セブン-イレブンの損益計算書(P/L)はどれでしょうか?
ポイントとしては
・①は売上原価が大きい。
・②は売上原価が小さく、営業利益が大きい。
・③は販売管理費が大きく、営業利益が小さい。
こんなことが挙げられます。では正解にいってみましょう。セブン-イレブンは②です!①がキャンドゥ、③がブックオフ。
・売上原価に計上されるのは直営店舗のみ。
・フランチャイズ契約による収益は加盟店収入として純額で記載される。
このようなカラクリがあるため、小売業でもP/L上は極端に売上原価が小さくなるわけです。もちろん直営店のみでP/Lを組み直してみると、3社の中でセブン-イレブンがもっとも原価率が高くなります。
原価率比較
●キャンドゥ:61%
●セブン-イレブン(直営店のみ):72%
●ブックオフ:40%
さいごに
今日はビジネス書『世界一楽しい決算書の読み方』をやわらか要約してきましたがいかがだったでしょうか?少しは決算書に興味を持っていただけたのではないでしょうか。
本書の特徴でもある「会計クイズ」というカジュアルな形を入り口に、日常でよくお世話になっている企業のビジネスを分解していくという手法は、会計を学ぶ第一歩として非常に踏み出しやすい内容だと感じます。
今日はほんの触りしか紹介できていませんが、色々な業種での会計クイズのほか、キャッシュ・フロー計算書(C/S)の解説や、会計クイズを実際に自分で作る際のExcelの操作方法まで、幅広く扱っています。
これから簿記を学ぼうとしている方や、会社で決算に関する仕事に携わられている方、投資で個別企業のビジネスモデルを読み解きたい方まで、本書は幅広く受け止めてくれます。
また読み物としても、図やイラストも多いため、文系で数字が苦手なぼくでも2時間ほどでサクサク読めちゃいました。こうした知識は覚えておいて損になることはありませんし、簿記やFP(ファイナンシャル・プランナー)の資格試験を勉強し始める前に読んでおくと、学習がスムーズに進むようにも思います。
ご興味を持たれた方は、ぜひ本書を手に取ってご覧になってみてください。アマゾンではKindle版も販売されていますのでオススメです。
ということで、今回は人生で初めて本の要約なる分野にチャレンジしてみたのですが、どうでしたかね?自分が本を読んだ履歴としても、こうして整理をしていくのは良いなと思いました。
一方で学習書の類だと、基礎部分をどの程度説明するかに非常に悩みますね。今後の参考にしますので、ぜひ感想などあればいただけると嬉しいです。
人生はノーコンティニュー!悔いのないようにやっていきましょう。
よろしければこちらの記事もご覧ください。
では、ごきげんよう。
企業のありのままの姿を見る。それが決算書。