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アークCEOキャシー・ウッド氏が考えるイノベーションの未来

アークCEOキャシー・ウッド氏が考えるイノベーションの未来
この記事で分かること

・キャシー・ウッド氏が考えるイノベーションの未来
・将来を注目している分野や企業
・従来の物差しでは”価値”を推し量ることはできない

おはーん、ペーパー先生です。

先日、破壊的イノベーションをテーマとしたアクティブ型ETF(上場投資信託)を運用している

米運用会社アーク・インベストメント・マネジメント(アーク)さんが手がけるETFについて紹介をしました。

詳しくはこちらをご覧ください。

破壊的イノベーションで注目を集めるアークETF
破壊的イノベーションで注目を集めるアークETF資産運用されている方は、皆さん何らかのモットーやポリシーがおありかと思います。先生の場合は「モットー:コツコツ・たんたん・中長期。」「ポリシー:"eコマース・SNS・金融・ゲーム・広告"のうち3つ以上を事業の柱として持つテック銘柄から選定。」です。そんな中、昨年からよく目にするワードが気になっていました。それが、"破壊的イノベーション"。今日は、米運用会社アーク・インベストメント・マネジメント(アーク)さんが手がけるETFについてやわらか解説します。...

手掛けているETFは玄人向けになっていますが、

キャシー・ウッド氏が考えるイノベーションの未来というのは、

長くIT業界に身を置いている先生も共感する部分が多くあります。

5日、マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタントの岡元兵八郎(ハッチ)氏が、

キャシー・ウッド氏に行った独占インタビューの模様がYouTubeで公開されました。

この中には5年後、10年後の世の中を見通していく上で参考になる情報が多く含まれています。

40分以上にも及んだインタビューを全編文字起こししましたので、

今日はその内容を、やわらか紹介します。

出演者の紹介

キャシー・ウッド氏:
大手運用会社にて12年間、グローバルテーマ株式運用のCIOとして50億ドル以上を運用し、2014年1月にアーク設立。ダボス会議への出席のほか、「Women in Finance, Outstanding Contribution Award」や「2018 Bloomberg’s Top 50」に選ばれ、女性版ウォーレン・バフェットとも称される、業界でいま最も注目される女性のひとり。

岡元兵八郎(ハッチ)氏:
上智大学を卒業後、ソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)入社。26年間一貫して外国株式のマーケティング、外国株式関連商品業務に携わる。その後、SMBC日興証券で、エクイティ部、投資情報部にて米国株式市場・企業情報の情報収集、分析、顧客向け資料作成業務の責任者。2019年10月にマネックス証券チーフ・外国株コンサルタントに就任。

【出典】ARK社創業者キャシー・ウッド氏の独占インタビュー!(マネックス証券)
2021年2月5日

インタビューの模様

日本時間の1月25日(月)朝6時に行われたインタビューです。


【出典】全編公開:岡元兵八郎(ハッチ)によるキャシー・ウッド氏の独占インタビュー(マネックスオンデマンド)
2021/02/05


<オープニング>

岡元兵八郎氏:
本日は、忙しいスケジュールの中、マネックスのお客様の為の企画に参加して頂き、大変有難うございます。

キャリー・ウッド氏:
いつものように、喜んで参加させてもらいます。

岡元兵八郎氏:
アーク・インベストメント社の評判の高いグローバルなリサーチ、また、アセットマネジメント会社にされたことおめでとうございます。

キャリー・ウッド氏:
有難うございます。ハッチさん。それが出来たのは、イノベーションにフォーカスした、世界で最高のチームの皆のお陰です。

岡元兵八郎氏:
キャシーさん、覚えてらっしゃるか分かりませんが、私が最初に御社を訪問しキャシーさんに会ったのは4、5年前のことです。今回再度お会いできてとても嬉しく思います。

キャリー・ウッド氏:
私も同じです。私たちの、アジア太平洋地域のパートナーでもある日興アセットマネジメントさんにもお礼を申し上げたいと思います。彼らの紹介のおかげで、私たちは今回再会できたわけですから。私も今回再度お会い出来て嬉しく思います。


<①米国にイノベーティブな企業が多い理由>

岡元兵八郎氏:
では早速、質問させていただきます。最もイノベイティブな企業のほとんどが、米国で誕生していると思うのですが、その理由は何故だと思いますか?

キャリー・ウッド氏:
今まではそうだったと思います。ただ、アジアの挑戦も始まっていると思います。イノベーションについて私たちに興味深いことを教えてくれていると思います。

ベンチャーキャピタル業界は、実質シリコンバレーで始ました。スタンフォード大学やカルフォルニア大学バークレー校などの文化として、学生にイノベーションを理解するためのトレーニングを始め、学生を発奮させたと思います。半導体が活気付いていたのは、昔の話です。今はイノベーションの機会がたくさんあるので、アメリカも競争にさらされ、イノベーションにインセンティブを与える国には優秀な才能が集まると思います。

シリコンバレーの優秀な若者はアメリカ人だけでなく、世界中から集まっており、今や母国に戻って自国で革新を起こそうという多くのインセンティブが与えられるようになっています。色々な国で政策立案が始まっていると思います。中国の5年計画のようなものです。次の5年目に入りますが、イノベーションを戦略の中心に据える計画です。

イノベーション、特にエンジニアリングとITに強い世界中の若者たちがシリコンバレーに集まりましたが、今後はシリコンバレーだけに優秀な若者が集まるということではないと思います。米国でも、シリコンバレーからテキサス州や資本優遇を行う州へ優秀な人たちが向かう動きが出ています。

岡元兵八郎氏:
米国はイノベーションの分野で主導権を握り続けるのではないですか?

キャリー・ウッド氏:
そうですね。私はイノベーションはアメリカ人のDNAにとても深く根付いていると信じています。そしてバイデン政権は移民政策をもう一度緩め、世界の「ベスト・アンド・ブライティスト」が渡米したくなるよう試みるでしょう。


<②長期的にS&P500のパフォーマンスに影響するか>

岡元兵八郎氏:
キャシーさんがリサーチの中で語ってきたイノベーションは、S&P500指数採用の企業により使われており、今後もますます使用されるようになるでしょうが、これは、過去と比べて長期的にS&P500指数の将来のパフォーマンスにどのように影響するのか、考えをお聞かせください。

キャリー・ウッド氏:
テスラの事例が非常に興味深い例だと思います。テスラは時価総額が5000億ドルに達してから、やっとS&P500指数に採用されました。その為5000億ドルに達するまでの期間、S&P500指数の投資家、または指数を意識して運用している投資家はテスラの株価の大幅な上昇の恩恵を享受していません。

今回のことは、ベンチマークを意識して運用している投資家にとっての教訓だと思います。私は、今回の件で、今後S&P500指数の銘柄採用のルールが変更される可能性があるのではないかと思っています。これがいつ起こるかはわかりませんが、テスラがS&P500指数に採用されなかった理由は、昨年第3四半期まで、4四半期の移動平均で黒字でなかった為です。

多くのイノベーション企業は赤字なんです。なぜなら、彼らは今積極的に投資を行っており、収益を上げるのが現時点での目的ではないからです。今は投資をすべきという判断の元、投資を行っています。その時が来たら収益を上げられる準備をしているのです。

今後もテスラ(TSLA)のような例、つまり、もっと前に指数に採用しておくべきだったという後悔する事態が起きますと、S&P500指数採用の要件を緩和する可能性があるのではないかと思っています。私がそうなると知っているわけではありません。S&P500指数に採用されていないイノベーティブな銘柄が沢山あったら、何とか早めに指数に採用させようとするのは、自然の発想だと思うのです。

岡元兵八郎氏:
興味深いですね。つまり、キャシーさんが言っていることは、そういったことが、長期的に株価指数にプラスの影響を与えるということですね。

キャリー・ウッド氏:
長期的ですね。最初に指数採用のルールを変更する必要がありますが、まだルールを変更していません。ですから、S&P500のような広範なベンチマークは、会社が利益を上げたいと思う規模に拡大するまで、多くのイノベーティブな企業を入れることができないのではないかと思います。

代わりに目につくのは、SPAC(特別買収目的会社)の存在です。彼らがやっているのは企業を早期に買収することであり、今後株式市場では、ベンチャーキャピタルに相当するSPAC指数がでてくるのではないかと想像しています。

岡元兵八郎氏:
同様の質問ですが、これらのイノベーションが長期的に、米国の経済成長にどのように影響してくると思いますか?

キャリー・ウッド氏:
ハッチさん、非常に興味深いことなのですが、今日の米国のGDPは、正しく測定されていないと考えています。これは、GDPは産業が主役の時代に作成されたからです。今のGDPが生まれたのは第二次世界大戦後だったと思いますが、政府が経済の成功を測るために、産業界の動きを測定していたのです。その時は産業の時代でした。

今はデジタルの世界であり、これまでのGDPの統計は現状に則していないと思います。私たちは実質GDP成長率は報告されているものよりも高く、実際にはインフレは報告されているものよりも低いと信じています。こういった統計は時間の経過とともに追いつくでしょうが、そうなるまでは、経済は非常にゆっくりと成長しているように見えると思います。GDP成長率は2〜3%、おそらく2%、インフレは1%〜2%の範囲と。

これらは後程改訂される訳ですが、その改定は今からおそらく5年または10年後になってわかるのです。改訂年数はそのくらいかかってしまうものなのです。イノベーションが経済にとってはるかに重要になってきます。2020年に世界で販売された220万台の電気自動車は、2025年には4000万台になり、5年間でこれは統計に反映されるはずです。車の台数の統計は、そう簡単なことではありません。

問題は、自動運転のGDPに与える影響ですが、これはタイムリーではなく、遅れて反映されることになるでしょう。ただ、これは悪い話ではありません。経済成長は一般に報告されているものよりも本当は高く、インフレは低いという事実、これは良いことだと思います。


<③エネルギー/ロボティックス/DNAシークエンシング/ブロックチェーンのうちどれが、今後最も投資機会があるのか>

岡元兵八郎氏:
次にお伺いしたい質問は、キャシーさんは、エネルギー貯蔵、ロボティックス、DNAシークエンシングとブロックチェーン技術といった5つのイノベーションにフォーカスしていますね。このうちどれが、投資家にとってまだ十分に理解されておらず、今後最も大きな投資機会がある分野とお考えでしょうか?

キャリー・ウッド氏:
私の「子供たち」の中から誰が一番良い子か選ばなければならないという質問を受けているのと同じで、お答えするのは余り好きではないのですが、投資家からの反対意見から判断しますと、病気を治してくれる能力を持つゲノム革命はあまり理解されていないのではないかと思います。

このテーマは、日本人の方がより良く理解をしているのではないかと思います。それは京都大学の山中教授が非常に重要な幹細胞の研究でノーベル賞を受賞しており、ゲノム革命を理解したいという欲求が、米国や他の国と比べると日本では強いのではないかと思っているからです。それは調査の設定方法が違うからです。

ヘルスケアセクターのアナリストはテクノロジーをちょっと恐れているところがあります。それは技術の動きが速すぎて、アナリスト達はリスクを恐れており、規制面での障害に注目するあまり、彼らは私たちが思っているようにゲノム革命が早く起きるとは信じていません。

私達の考えがおそらく正しいと思っている理由は、過去6ヶ月で初めて、病気の治療法、鎌状赤血球症を見てきたからです。ビクトリア・グレースという人がいます。彼女は、米国でちょっとした有名人になりました。彼女は今まで、少なくとも年に6回病院へ、緊急治療室に行かなければなりませんでしたが、治ってもう1年間病院へ行っていないと言うのです。βサラセミア(遺伝子異常による貧血の一種)が治った別の男性は、今まで毎年17回輸血のため病院に行かなければならなかったのですが、過去12〜14ヶ月間で輸血のために1回も病院に行っていないと言っています。

いまは転換点だと思うのですが、ゲノム革命関連企業の時価総額はまだまだとても小さいのです。CRISPR-CAS9(遺伝物質を特定、削除、置換できる技術)の基礎となる特許を持つ3つの会社の時価総額は200億ドルから250億ドルぐらいです。3社でたった250億ドル、一方、アップル株は1.5兆ドルです。確かにアップルは私たちの生活を変えたことで時価総額が急激に大きくなりました。ただ、アップルは病気を治せる訳ではありません。そう言った意味で、ゲノム革命関連企業は、時価総額の大きな拡大が期待できると思います。

もう一つは、金融サービス業界への影響として、ブロックチェーン技術を挙げておきます。DeFiまたは分散型金融と呼ばれるものが、金融サービス業界から多くの中間業者を排除することになるでしょう。それにより一時的な効果として既存の銀行や他の金融機関が劇的にコストを削減できるようになります。そして次に起こることは、DeFiで行われていることの多くがスマートコントラクトを中心としたものなので、今日の金融サービスにおいて付加価値をつけられている機会の多くがブロックチェーン技術に置き換えられることになるでしょう。その辺りに注目をしてください。


<④スペースXが今後、2年以内で上場企業になるか>

岡元兵八郎氏:
昨年、日本で最も成功したファンドの1つが、日興アセットマネジメントを通じて日本で販売されているグローバル・スペース・ファンドだと思いますが、このファンドの投資テーマの今後の展望についてご意見をお聞かせください。

キャリー・ウッド氏:
はい、非常にエキサイティングな「スペース(=領域)」です。私たちは最初に日本で先行して宇宙ファンドを立ち上げました。フィンテック・ファンドを最初に日本で立ち上げた際は国におけるフィンテックに対する関心度合いを図るための先行指標として役に立ちました。しかし宇宙ファンドについては、その「テイクオフ(=離陸)」はゆっくりとしたものでした。

私たちが今得ているもののいくつかは私たちが当時必要としていたものだと思います。スペースX社のロケットは宇宙ステーションに到達し、人を送り込み、ロケットは壊れることなく無事に地球に戻ってきて着陸するという、信じがたいような成功を収めています。ではなせそれが興味深いのでしょうか?それはイーロン・マスクにとっての関心ごとだからです。なぜなら火星に行くためには、再利用可能なロケットが必要だからです。それが彼が行った理由です。

再利用可能なロケットが必要なもう一つの理由は、宇宙のどこにでも行けるためのコストを削減したり、世界中の最も遠隔地にいる人々がインターネットサービスを受けられるようにするために世界中に衛星を配備するコストを削減したりするためです。現在、世界の約半数程度の人しかインターネットサービスを利用しておらず、ブロードバンドインターネットサービスを利用している人はもっと少ないというのは信じられないことです。宇宙と衛星、宇宙計画と衛星技術は、世界の一部の地域で、これまでアクセスできるとは思ってもいなかったアクセスを可能にします。

ここでは2つの変化が起きています。ロケット、衛星、アンテナ、発射台等、これら技術に関連したコストの劇的な低下です。再利用可能なロケットはその大きな例です。そしてサービスの必要性です。そのサービスによって地球の最も遠隔地の隅々に現代世界をもたらすことができるという考えは、非常にエキサイティングです。

また、月でなく火星を目指しているという考えも非常に刺激的だと思います。現在のイーロン・マスクがテスラで収めた大成功を見るとにわかには信じられないかもしれませんが、テスラがモデル3の生産規模を拡大できるかどうか心配されていた時、私はよく言っていました。イーロン・マスクがロケットを海の中の「はしけ船」に無傷で着陸させることができれば、彼はおそらく自動車を生産することができるだろう、と。今度は、誰も想像もしなかったやり方で自動車事業を拡大しているのだから宇宙事業においても成功するだろうという信頼感が高まりました。その成功がより多くの人々の宇宙事業への関心を高めたと思います。

宇宙開発競争も理由の一つだと思います。イーロン・マスクのスペースX、ジェフ・ベゾスのブルーオリジン、そしてアマゾンでさえ衛星の増加に関与しています。ジェフ・ベゾスは個人的にブルー・オリジンに投資しています。そしてもちろん、宇宙ファンドのトップ銘柄の1つであるヴァージン・ギャラクティック(SPCE)のリチャード・ブランソンもいます。リチャード・ブランソン自身が、数日前に、数ヶ月後の初の宇宙旅行を楽しみにしていると発言しました。会社側はテストでちょっと失敗があったので、もう数ヶ月後になるかもしれないと発言していますが、私たちは、次の半年以内に、彼が宇宙に行くと信じています。これもまた宇宙と宇宙戦略にとっての強力な後ろ盾となることでしょう。この宇宙関連投資は今始まったばかりで、とてもエキサイティングなテーマということです。

岡元兵八郎氏:
現在、このテーマで利用できる株は非常に限られています。スペースXは上場していません。これら企業が今後数年間で上場企業になると思いますか?

キャリー・ウッド氏:
はい、2年以内で上場企業になると思います。上場しようという企業は列をなしていると思います。実際、私たちが宇宙ファンドに組み入れている株式の1つは、Blade(Experience Investmentへ社名変更:EXPC)と呼ばれている特別買収目的会社(SPAC)です。ヘリコプターブレード用のBladeなのですが、これらは電動垂直離着陸機(eVTOL)です。

私達はTransport UPという団体から毎年夏にセミナーに招待されて、Bladeをはじめとする企業と会い、この領域をよく知ることができました。今日もBladeと、電動垂直離着陸機(eVTOL)による人の移動や、貨物ドローンがどれくらいですぐに実現可能かについて話しました。多くのドローン技術が防衛関連企業の中で活用されていることがわかります。

Aerovironment(ティッカー:AVAV)のような大企業が宇宙戦略の中で活躍しています。その関係で、米国の規制当局から商業用に宇宙戦略を用いる承認が得やすくなっています。その事業の一つが、ドローンを使って例えばアラスカの大きな油田の調査ができるようになっていますし、大きな農地での調査も視野に入れています。

このように、私たちの戦略のすべてが経済セクターを横断しているのと同様、宇宙戦略は他の多くのセクターにも関連していると考えています。考えてみてください。Bladeは、腎臓や肝臓、その他の臓器を移植するためのドローン輸送に関与しています。このように医療の世界にも関わってきます。ですから、始まったばかりの、非常に大きいテーマなのです。なぜなら、技術の準備が整い、コストが下がれば、より多くのセクターや業界がそれらを活用できるようになるからです。


<⑤キャシー氏テスラ株のシナリオ>

岡元兵八郎氏:
私の理解が正しければ、キャシーさんはテスラについて2018年2月に業績予想を出しましたが、大正解ですね。1年前に、2024年にテスラの株価は、(分割後)1,500ドルとなると予想していました。これが、基本的なシナリオで、強気ケースのシナリオは3,000ドルでした。しかし現在、3,000ドルの目標株価は、強気ケースのシナリオではなく、標準ケースのシナリオになっている感じですね?そうだとしたら、なぜでしょうか?

キャリー・ウッド氏:
ハッチさん、あなたがまるで私たちのリサーチ会議の場にいたみたいに思います。先日リサーチ会議を行ったばかりで、当社のアナリストのターシャ・キーニがテスラの株価予想モデルの最終調整をしています。テスラの配車サービスや、自動運転車の所有や、ライドヘイル車の所有者に提供できる低コストの自動車保険、これは非常に収益性の高いものですが、こういったものを分析に含めたものです。

今はその内容をお伝えすることはできませんが、しばらくお待ちください。数週間以内に新しい目標株価を発表します。先ほど申し上げたように、あなたがまるで私たちのリサーチ会議に参加していたように感じる、とだけお話しさせてください。

岡元兵八郎氏:
それに関しての質問です。明確な数字をあげることはできないということですが、テスラは今から約10年後の2030年にどのような姿になっていると思いますか?

キャリー・ウッド氏:
私たちは、テスラは世界最大級のタクシープラットフォームの一つになると信じています。テスラは、米国の主要な自動運転タクシー会社になれると信じています。私たちは、世界全体で自動運転の市場は、約10兆ドル程度になると考えていますので、テスラの時価総額をより大きいものにすると思います。ですから、テスラにとってとても大きなチャンスだと思います。

そして、もし自動運転が成功してテスラの評価額が大幅に上昇するとしたら、それは自動運転の粗利益率が高い為です。電気自動車のグロスマージンは25〜30%くらいだと思います。テスラはそれを40%に押し上げることができるかもしれませんが、私たちは念のため25〜30%と想定しています。ただし、自動運転といっても、「サービスとしての輸送(TaaS)」であり、そのモデルは「サービスとしてのソフトウェア(Saas)」のようなものです。これは、80%〜90%のグロスマージンが得られる構造になり得ます。

したがって、テスラ全体としてのグロスマージンは、おそらく60%台半ばから後半になるでしょう。テスラの価格モデルにそのような混合グロスマージン構造を設定しているアナリストは他にいないと思います。なぜかというと、彼らは自動運転としての価値を考えているのではなく、今そこにある電気自動車としての価値しか見えないからです。


<⑥テスラ株は今年どのようにすればいいか>

岡元兵八郎氏:
テスラの株価は昨年大きく上昇し皆を驚かせました。しかし、キャシーさんはまだ大きな上昇余地があると信じていますね。昨年の驚異的なパフォーマンスを考えれば、一般の個人投資家が投資に慎重になるのは当然のことだと思うのですが、個人投資家は、急騰したテスラ株を今年はどうするべきなのでしょうか。今後生じうる混乱は無視して2024年、さらにはその先まで株を保有すべきでしょうか。

キャリー・ウッド氏:
私の個人的な戦略はしっかり保有し続けることです。もちろん税金やその他考慮しなければならないこともありますが、個人的には継続保有です。ファンドとしての私たちの投資行動は別です。ポートフォリオを見ていただくと分かると思いますが、私たちはテスラ株を売却してきました。それは他のアナリストがどんどん目標株価を上げてきているからです。

ある証券会社が今週1,400ドルの目標株価を掲げましたが、別の証券会社がこれまでつけていた1,000ドルを大きく上回るものでした。つまりこれは、私たちは電気自動車の機会・将来性が多くの人に理解されたことを意味すると判断しています。ただ、今後その彼らの掲げた目標株価に近づくにつれ、彼らは自動運転の将来性を信じていないので、おそらくテスラの評価を下げ、株価に修正が起こるだろうと考えています。

もしかすると自動運転の戦略絡みで株価の大きな修正が起きるかもしれません。これまでの株価上昇の局面で株の売却をした訳ですが、株価が下がる局面ではポジションを増やしていくでしょう。自動運転車は最大の投資機会の一つであると考えていますので。


<⑦なぜウォールストリートのアナリストはキャシー氏がみているような、真の市場価値を見いだせないのか>

岡元兵八郎氏:
ウォール街のアナリストの多くは、キャシーさんのテスラの分析よりもテスラを低く評価していますね。その理由は、テスラ株をカバーしているこれらのアナリストは元来は自動車業界のアナリストであり、自動車アナリストの視点からしか会社を見ていないからだとも言われています。なぜ、テスラをカバーしているほとんどのアナリストは、あなたが見ているような真の企業価値を見出せないのだと思いますか?

キャリー・ウッド氏:
そうですね。自動車アナリストは非常に成熟した業界を担当しています。実際、ガソリンエンジン業界は衰退していく業界で、彼らはバリュー的に株価の分析をする傾向があります。PBRや配当利回り、あるいは事業ごとの価値の総和(SOTP分析)で株価を判断しようとするのです。

例えば最近GMのクルーズ・オートメーションの価値を300億ドルと評価をしたアナリストがいました。GMは800億ドルの評価額で、現在GMはそれぞれの部門の評価の総和を反映するような形で株価の評価がされているのですが、同じ手法でテスラのような企業の価値を算定するのはとても難しいのです。なぜならテスラは旧来の業界には存在しないからです。そのため伝統的な自動車アナリストたちは、テスラをどう評価すれば良いかわからないのです。

彼らはソフトウェアアナリストでもなく、ロボティクスアナリストでもなく、エネルギー貯蔵アナリストでもなく、人工知能アナリストでもありません。私たちはそれを、4つの異なる領域の専門知識のモデルに落とし込んでいます。自動車アナリストがテスラを理解するのが難しいのは分かります。テスラは単なる自動車株ではありません。それが最大の問題だと思います。


<⑧キャシー氏の分析はなぜ、他のアナリストと違う分析ができるのか>

岡元兵八郎氏:
キャシーさんは、企業や業界の分析をする際に大多数のアナリストが理解していないことを見抜かれています。他のアナリストと人とは違う分析ができるのは何故だと思いますか?

キャリー・ウッド氏:
理由は2つあります。1つ目は、私たちの調査の取り組み方にあります。これは他のリサーチ組織や金融サービス業とは特に異なるやり方をとっています。従来の世界では、セクターごと、サブセクターごと、サブ・サブセクターごとに責任分担がなされていました。極めてサイロ化されており、専門化されています。それは今日のイノベーションを分析するための正しい方法ではないと考えています。

私たちは、アナリスト全員がテクノロジーに精通していなければならないと考えています。ですから、彼らは全員が技術アナリストでなければならないし、同時にジェネラリストでなければならないのです。そこで私たちは、アナリストが適切に責任を分担できるように「イノベーション・プラットフォーム」に分割しました。つまり、イノベーション・プラットフォームのエキスパートは、セクター別に見るジェネラリストということになります。そう、これは現実の世界、あるいは伝統的な世界とは全く違うやり方です。

イノベーションの収束が次から次へと起きている時代においては今までのやり方の分析では、非常に困難になっていくことでしょう。先ほどテスラの例で説明しましたが、テスラの分析は3つのプラットフォームの融合からなっています。自動運転配車ネットワークはロボット工学、これまでになく費用対効果の高い電気自動車はエネルギー貯蔵、そしてこれらの自動車の動力源となっている人工知能の3領域です。

当社のアナリスト3人が1つの企業について協働しているのは、それぞれの専門領域を融合させるためなのです。従来の調査部門で私たちが目にしてきたものは、ある銘柄をカバーしたいアナリストと別のアナリストとの綱引きです。ここでアマゾンの例が思い浮かびます。テクノロジーアナリストはアマゾン株の調査をしたいと言っていましたが、小売アナリストはNoと言いました。ところがアマゾンはAWSのおかげで、テクノロジー企業としての評価が高まったのですから、本当ならば小売とテクノロジーのアナリスト両方でリサーチをすべきだったのです。

このように私たちは、従来のリサーチ組織にはなかったような形で、アナリスト同士のコラボレーションを可能にし、また推奨するよう組織されています。第2の理由は、ベンチマークを使って銘柄を選別していないことです。私たちは、まずは白紙の状態から例えば電池技術に関して言うと、自動車や携帯電話の分野ではどのような電池があり、誰がどのような電池を使って何をしているのか、そして、彼らが何をしているのかや、どのぐらいの速さでコストが下がるのか、他と比較しながら分析します。

そういうわけで、テスラがすでにバッテリー技術を進歩させ、バッテリーコストを劇的に削減していた家電業界のコストカーブに乗ることを決めていたことが最初からわかっていたのです。家電業界のバッテリー技術よりずっと高くつくリチウムイオンを使用していた他の自動車メーカーと比較して、テスラが正しいバッテリー技術を選択していたことはわれわれにとっては非常に早い段階から明らかでした。


<⑨テスラ以上に気になる会社とは>

岡元兵八郎氏:
テスラと同じぐらい、もしくは、現時点でテスラ以上に気に入っている会社があれば教えてください。

キャリー・ウッド氏:
テスラはまだ当社の主力戦略の中で最大のポジションを占めていますので、質問の答えの1つになっていますね。現在ポートフォリオの中で、大きな上昇余地があると考えている銘柄としては、ゲノム分析診断のインビデ(NVTA)があります。

インビデは、他のどの診断会社よりも積極的にDNA配列決定と人工知能の融合を大きく活用しています。中国にどんな会社があるかわからないのですが、おそらくインビデは最も先を行っていて、世界最大級の分子診断企業の1つと言っていいでしょう。もしこれが人工知能ゲームだとすると、最も多くのデータと最高品質のデータを持っている会社が勝つことになるからです。病気の治療・解決しようとしている多くの機関と協力して、インビデが収集した全てのゲノムプロファイルの量は膨大なものです。

例えばてんかんは大きなものです。インビデは、データと病識を共有するために、そのような組織のすべてと契約しているので、世界の他のどの組織よりも多くのデータを持っていると思います。また世界で最も重要な研究病院のいくつかと連携して、研究と科学を前進させるために無料でゲノム配列の解析をしています。つまりデータを得るために、多くのサービスを無償で提供しています。同社は世界で最も重要な診断会社の一つになると思っています。

同じように、デジタルウォレットの分野では、スクエア(SQ)がより早く進化していますね。Wechat、Wechatペイ、Alipayなどのアジアのサービスから多くを学び、非常に高度なマーケティング戦略で急速に成長しています。ゲーム業界にも関与が深く、同社の広告は2週間に1回、仮想通貨コミュニティ向けにCashApp Fridayというキャンペーンでビットコインをプレゼントするなど行っています。ここはペイパル(PYPL)等の大手が進出できていない領域です。

こういった分野は、伝統的なビジネスの世界よりもはるかに早い速度で成長していくと考えています。サービス提供者とCashApp利用者の間で、2面性のあるマーケットプレイスとなります。その中でサービス提供者と消費者は囲い込み型のエコシステムを築き始め、利用者は伝統的な金融機関を利用する必要がなくなると考えています。このような企業は、伝統的な銀行を競争上不利な立場に追いやっていくと考えています。


<⑩ビットコインが10年後に果たす役割とは>

岡元兵八郎氏:
キャシーさんはビットコインにも非常に強気ですね。10年後ビットコインが私たちの経済に果たす役割をどのように考えていますか?

キャリー・ウッド氏:
地球上で最初の、世界のデジタル通貨システムの基軸通貨になると思います。多くの人は、そんなことはありえないと考えています。政府がそれを取り締まると考えているからです。実際、彼らは仮想通貨のリブラを事実上締め出しました。

ビットコインがそうはならない理由ですが、リブラには取り締まるべき主体、つまりフェイスブックがありますが、ビットコインには取り締まるべき主体がありません。ですので、ビットコインは世界的なデジタル通貨になり、デジタル世界で最も重要な価値の保存手段になるのではないかと考えています。

また、非常に裕福な人々のためのヘッジ、富の搾取に対するヘッジになると考えています。これには2つのケースがあります。1つはインフレです。インフレが問題になるとは考えていませんが、金融政策が不安定になると見方を変えた場合、インフレとなり、インフレは富の搾取へと変わり、ビットコインはそのヘッジとなります。

そして、もう1つ富裕層が恐れているのは、中東で皇太子が自分のいとこの富を奪った例があるように、弾圧によって自分たちの富の没収をされることです。そしてヘッジが必要だと言うでしょう。これもビットコインの非常に大きな活用例になると考えています。


<クロージング>

岡元兵八郎氏:
キャシーさん、再度、マネックス証券とお客様を代表して、お忙しい中、このようなインタビューの時間をいただき、また、お知恵をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。私たちスタッフ一同、あなたとアーク・インベストメントの今後のご活躍をお祈りしております。本当にありがとうございました。

キャリー・ウッド氏:
私は長期でのお付き合いができ、嬉しく思います。そしてご一緒にお仕事ができて嬉しいです。こちらこそありがとうございました。

岡元兵八郎氏:
ありがとうございました。おやすみなさい。

さいごに

キャシー・ウッド氏のインタビュー、いかがでしたでしょうか。

<サマリー>

・イノベーションはシリコンバレーだけではなく、資本優遇を行う州やアジアの挑戦も始まっている。

・今後S&P500指数の銘柄採用のルールが変更される可能性があるのではないかと思っている。

・株式市場ではベンチャーキャピタルに相当するSPAC指数がでてくるのではないかと想像している。

・今日の米国のGDPは、正しく測定されていないと考えている。

・病気を治してくれる能力を持つゲノム革命はあまり投資家に理解されていない。

・今日の金融サービスにおいて付加価値をつけられている機会の多くがブロックチェーン技術に置き換えられる。

・世界の約半数程度の人しかインターネットを利用しておらず、宇宙計画と衛星技術はこのアクセスを可能にする。

・テスラは世界最大級のタクシープラットフォームの一つになると信じている。

・アナリスト全員がテクノロジーに精通していなければならない。

・ポートフォリオの中で、大きな上昇余地があると考えている銘柄はゲノム分析診断のインビデ(NVTA)。

・デジタルウォレットの分野では、スクエア(SQ)がアジアのサービスから多くを学び進化している。

・ビットコインは地球上で最初の、世界デジタル通貨システムの基軸通貨になると思う。

テクノロジーの進化により、業界間の垣根が急速になくなったことで、

従来の物差しでは”価値”を推し量ることはできない、という強いメッセージが受け取れますね。

大変勉強になりました。

投資は自己責任でね。

では、ごきげんよう。

今日のまとめ

変化には変化をもって対応する。

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