・冒頭発言要旨
・会合冒頭の舞台裏
・変革期と安定期
おはーん、ペーパー先生です。
18日に米アラスカ州で行われた米中両国の外交担当トップ級会合は、
冒頭のメディア公開の場で強烈な非難の応酬が繰り広げられました。
異例の展開は、改めて米中対立の根深さを浮き彫りにしたわけです。
22日、米国務省が公式サイト上で公開した冒頭発言の全文をもとに、
今日は本会合で決定的になった分断社会の概況をやわらか解説します。
冒頭発言要旨
🇺🇸ブリンケン国務長官
・楊潔篪(ヤン・ジエチー)氏と、王毅(ワン・イー)氏を歓迎し、謝意を伝えたい。
・ここで提起する問題は世界全体に関わるため、日韓ともこの場の米中間での議論に大きな関心を示していた。
・我々の政権は、米国の利益を促進し、ルールに基づく国際秩序を強化する外交を進める決意をしている。
・力こそが正義で勝者が総取りするような世界は暴力的で不安定な世界となる。
・新疆ウイグル自治区、香港、台湾、米国へのサイバー攻撃、同盟国への経済的な強制行為などに深い懸念。
・両国関係を前進させるという目標を持ちつつ、我々の持つ懸念や優先事項について明確に伝えたい。
🇺🇸サリバン大統領補佐官
・アラスカは本土から離れているが米国らしさを感じられる場所で、今回の会議を開催するにはふさわしい。
・バイデン大統領は日米豪印4カ国の首脳会議を開催し、自由で開かれたインド太平洋構想の実現を約束した。
・中国に対するアプローチが、米国民の利益かつ同盟国やパートナーの利益も守ることを明確にするのが最優先。
・我々は衝突を求めていないが、厳しい競争は歓迎する。
🇨🇳楊(ヤン)共産党政治局員 ※通訳
・中国と米国はともに世界の主要国であり、世界と地域の平和、安定、発展に対する責任を担っている。
・建国100年の目標へ移行する歴史的な年。35年までに基本的な現代化、50年までに完全な現代化を遂げる。
・中国の1人あたりGDPは米国の5分の1にすぎないが、中国の絶対的貧困を終わらせることができた。
・我々の価値観は人類共通の価値観と同じで、平和、発展、公平、正義、自由、民主だ。
・中国と国際社会が従い、支持しているのは、国連を中心とする国際システムと国際法に裏付けられた国際秩序。
・我々は米国が自らの印象を変え、自国流の民主主義を他国に押しつけるのをやめることが重要だと考える。
・中国と米国はともに大国であり、平和や安定に加え、新型コロナや気候変動などでも貢献しなくてはならない。
・我々がすべきことは、冷戦時代の考え方やゼロサムゲーム的なアプローチを捨てることだ。
・米国が軍事力や金融覇権を通じて国家安全保障を拡大適用したりすることは問題。
・日韓は中国にとって第2位、第3位、ASEANはEUや米国を抜き、中国の最大の貿易相手。
・習近平国家主席とバイデン大統領の電話協議では意見の相違を乗り越え、協力関係を拡充することで合意した。
・中国は自国の内政に米国が干渉することに断固として反対し毅然とした行動を取る。
・習国家主席が言ったように、対立せず、衝突せず、互いに尊敬し合うウィンウィンの協力関係を築きたい。
・米国や西側諸国が国際世論を代表することはない。米国が代表するのは米政府についてだけだ。
🇨🇳王(ワン)外交担当国務委員 ※通訳
・ブリンケン氏、サリバン氏は長年中国との関係に関与しており、中国の国民にとって真の友人でもある。
・アンカレジは中米を空路でつなぐ中間地点で、燃料補給地点としてフェアである場所。
・中国はこれまでも、そしてこれからも、到底是認できない米国からの非難を受け入れない。
・米国側に、意図的に内政干渉をする覇権的な行動を完全にやめるよう促す。今こそ変えるべきとき。
・我々が出発する前、米国は新たな制裁を成立させた。これはゲストを招く国がとるべき手段ではない。
・国際社会は今日、明日と続く我々の対話が世界にとって前向きな兆候となるかどうか注視している。
🇺🇸ブリンケン国務長官
・世界中の百人近いカウンターパートと話してきたが、あなたが説明したこととかなり異なることをうかがっている。
・米国のリーダーシップや関与のあり方は、自発的に構築された同盟関係やパートナーシップであることに特徴がある。
・国内におけるリーダーシップにはもう一つの特徴がある。より完全な結束を作り上げるための絶え間なき探求だ。
・我々が歴史を通じてなし得たことは、課題にオープンかつ透明性を持って立ち向かうことだ。
・時には痛みを伴い、時には醜いかもしれない。しかし毎回、より強固で、より良く、より結束する結果となった。
🇺🇸サリバン大統領補佐官
・数週間前、探査機を火星に着陸させたが、単独プロジェクトではなく、欧州や他地域の技術が加わったものだ。
・絶えず自らを改革し、他者と緊密に協力し、全員に利益をもたらす進歩を追求している国により達成できる。
🇨🇳楊(ヤン)共産党政治局員 ※通訳
・互いの冒頭発言のトーンに注意するよう米国側に念押しすべきだった。
・米国側の論調が原因で、中国側はこのようにスピーチすることを強いられた。
・あなた方の冒頭発言での論調から判断すれば、強者の立場から中国を見下す形で話したいということなのか。
・米国は中国に対して強者の立場から話す資格は持っていない。
・欧州とともに他の惑星に降り立った連携について、中国は同様の連携を米国がするつもりであれば歓迎する。
🇨🇳王(ワン)外交担当国務委員 ※通訳
・国家間の関係を考えていくとき、中国と米国、中国と日本、中国とオーストラリアとの関係を取り上げるものだ。
・彼らが見解を中国に伝えるより前に、中国が威圧していると非難するのは正しい行動だろうか。
・米国が同盟国やパートナーだという理由だけで抗議したり肩を持つなら、国際関係の正しい発展は難しい。
・我々は米側と話し合う準備はできている。もっとも相互尊重の精神に基づくものであるべきだ。
【出典】Secretary Antony J. Blinken, National Security Advisor Jake Sullivan, Director Yang And State Councilor Wang At the Top of Their Meeting(米国務省)
MARCH 18, 2021
【出典】米中外交トップ会談、異例の応酬 冒頭発言全文(上)(日経電子版)
2021年3月22日 22:30
【出典】「聞いた話と違う」米中外交トップ会談、冒頭発言全文(下)(日経電子版)
2021年3月23日 11:03
会合冒頭の舞台裏
冒頭要旨でも相当な応酬となっていることが分かります。
補足をすると、メディア公開する内容は、事前に米中それぞれの
代表者から2分間のコメントを出してもらい、報道陣が退席する流れでした。
実際には、
🇺🇸ブリンケン国務長官:2分27秒
🇺🇸サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当):2分17秒
🇨🇳楊共産党政治局員:16分14秒
🇨🇳王毅外交担当国務委員兼外交部長:4分9秒
このような尺となり、一巡目の終了後
ブリンケン国務長官が、退出していく報道陣を呼び戻すため、
国務省の出入り記者に対して、もう一度全メディアに部屋へ入ってもらうように促しました。
つまり2巡目は、そういう経緯から始まっており、
ペーパーに頼らない本音のぶつけ合いになっています。
【出典】中国「メディアの前で侮辱」手法に、米国「記者団、出て行くな」正面対応(中央日報日本語版)
2021.03.19 14:10
さいごに
米政権が変わったことを印象付けるのは、この会合に漕ぎ着けるまでの流れです。
今回、上記要旨にもあった通り、日本、韓国、そしてクアッド(日米豪印)、
いわゆる米国および有志連合国とのすり合わせをしっかりを行ってから、中国との対話に臨んだわけです。
トップ外交で事前調整なくガンガン攻めるトランプ政権では考えられないほど丁寧な進め方です。
先生は、会合の場に居たわけではありませんので、あくまで感想の域を出ませんが、
冒頭からルールをひっくり返して自国ペースに持ち込もうとした中国に対して、
米国は慎重な根回しの上で的確に中国側に釘を刺した、そんな印象があります。
こうした多国間主義を重視する米国の姿勢を踏まえると、
バイデン大統領が対面での首脳会談相手の1人目に日本の菅首相を選んだのも頷けます。
中期的な中国包囲網をより強固にしていくため、
地理的に米中の間に置かれている日本が、極めて重要になってくるからです。
アンカレジ会合後、ウイグル族への不当な人権侵害問題で欧州連合(EU)やカナダは中国に対する制裁を発動。
22日には、ロシアのラブロフ外相が訪中し、王(ワン)外交担当国務委員と会談をするなど、
米国・中国をそれぞれ筆頭とする両群の顔ぶれはだいぶ見えてきた感じがします。
年明けに何本か関連記事を書いてきていますので、ぜひご覧ください。
この対立構造はもちろん「経済」というベースで注目されているわけですが、
各国・地域がより重視し始めている「人権」や「環境」という側面においても、結局は「経済」と密接に結びついています。
特定分野だけ米中が手を組んでいくことはもはや望み薄で、両陣営の軸足は仲間作りに傾倒していくと思います。
最後に例え話ですが、米中をそれぞれ企業に例えますと、
・「創業者が君臨する成長著しい新興企業」(中国)
・「意思決定を合議制で行う巨大老舗企業」(米国)
と言い表せます。
どちらも良し悪しありますが、変革期には前者が強く、安定期には後者が強い。
どちらの属性の会社にも勤めたことがある先生は、こう感じています。
コロナ禍をきっかけに、今後少なくても10年は変革期にあたる気もしていますが、
さて、どうなるでしょうか。
では、ごきげんよう。
正義の反対は、また違う正義。