・全国人民代表大会が開催
・政府活動報告要旨
・重視する研究開発7分野
おはーん、ペーパー先生です。
中国で全国人民代表大会(全人代)が11日、閉幕しました。
これは年に1度開催される国会にあたる重要会議で、
国家の最高権力機関および立法機関として位置づけられる一院制議会です。
表明される目標設定は、今後の世界経済や米中関係にも影響が大きく、
2020年代の行方を占う上で、世界中が注目をしています。
今日は、全人代から見える中国が目指す将来についてやわらか解説します。
なぜ今年の全人代に注目をするのか
かねてからこのブログでは中国の動きについて注目をしてきました。
米国一強だった過去10年の株式相場の流れに大きな転換期が訪れています。
先生は17年から、米国株と合わせて、一部をADR(米国預託証券)や香港市場で、中国株にも投資を続けていましたが、
米国に寄りすぎていた個別株の比重を、米中でバランスを取るよう今年から変更をしました。
投資信託でもS&P500とMSCIエマージング・マーケット・インデックスとでバランスを取りました。
今後10年、米国と中国のどちらが経済の主導権を握っていくのかが分からないので、
両張りせざるを得ないという、ある意味仕方なくそうした打ち手です。
バイデン新政権のスタート後も、米中それぞれの距離感はまだ手探りという状況が続いていることから、
今年の全人代で示される方針というのは特に高い注目をしているわけです。
政府活動報告要旨
李克強(り こくきょう)首相が5日に実施した政府活動報告の要旨は以下の通りです。
<2020年の回顧>
・新型コロナ対策で重要な成果を上げ、世界経済のプラス成長を実現した唯一の主要経済国となった。
・20年の国内総生産(GDP)は2.3%伸びた。
・「脱貧困」の全面的な勝利を収め「小康社会」(しょうこうしゃかい)の完成に向け決定的な成果を上げた。
・感染症対策での国際協力を支持し、世界平和と発展を促進するための重要な貢献を果たした。
<過去5年の成果>
・これまで70兆元(約1200兆円)に届かなかったGDPが100兆元を超えた。
・有人宇宙飛行や月面探査事業などで大きな成果を収めた。
・絶対的貧困の撲滅という非常に困難な任務を完遂した。
・金融リスク対応で重要な中間成果を得た。
・供給側の構造改革を推進した。
・国防/軍隊建設の水準が大幅に向上した。
<21~25年の第14次5カ年計画>
・発展の質や効率向上に力を入れ、経済の持続的で健全な発展を保つ。
・労働生産性の伸び率がGDP成長率を上回るよう失業率を5.5%以内に抑え、物価水準の全般的な安定を保つ。
・科学技術の自立自強を国の発展の戦略的な支えとする。
・社会全体の研究開発(R&D)費を年平均7%以上増やす。
・産業基盤の高度化、産業チェーンの現代化、デジタル化の発展などを進める。
・国内経済の循環体系をよりどころにして世界の投資をひき付ける「双循環(2つの循環)」を促進する。
・30年の温暖化ガス排出削減目標の達成に取り組む。
・GDP1単位当たりのエネルギー消費量を13.5%、二酸化炭素(CO2)排出量を18%引き下げる。
・住民1人当たりの可処分所得の伸び率がGDP成長率とほぼ一致するようにする。
<21年の経済目標>
・GDP成長率は6%以上とする。
・都市部で新規就業者数は1100万人以上とし、失業率は5.5%前後とする。
・消費者物価の上昇率は3%前後とする。
<財政>
・21年のGDPに対する財政赤字の比率は昨年よりやや低めの3.2%前後とする。
・感染症対策の特別国債発行を終了する。
・財政支出総額を20年より増やし、雇用や民生を重点的に支援する。
・中央レベルの支出を引き続きマイナスの伸びとし、地方への一般的移転支出を7.8%増とする。
<減税・雇用>
・小規模な納税人に対する増値税の基礎控除額を月間売上高10万元から15万元に引き上げる。
・大型商業銀行の零細企業向けの包括融資を30%以上増やす。
・人員削減を抑えた企業に対して財政や金融などの政策支援を継続する。
<産業振興>
・中小企業向けのブロードバンドと専用回線の使用料金をさらに10%引き下げる。
・知的財産権の保護を強化する。
・国有資本/国有企業をより強く、より良く、より大きくする。
・国有企業の混合所有制改革を深化させる。
・プラットフォーム企業の革新発展と国際競争力の向上を後押しする。
・プラットフォーム企業による独占の取り締まりを強化し、公平な市場競争環境を断固として守る。
・サプライチェーンの安定と改善を図る。
<内需拡大>
・自動車や家電などの高額消費の安定的増加を促す。
・プラットフォーム企業がサービス手数料を合理的に引き下げるように導く。
・21年は地方特別債を3兆6500億元とし、建設中の事業を優先的に支援する。
・中央政府の予算枠内の投資を6100億元とする。
・情報ネットワークなど新型インフラ整備に取り組む。
・都市部の古い住宅地の改築を5万3000カ所で新たに着工する。
<農業>
・食糧と重要農産物の安定供給能力を高める。
・食糧安全保障の要は種子と耕地にあり、核心技術の難関攻略に取り組む。
・食糧を生産する農家向けの助成金を安定させ、もみ米や小麦の最低買い付け価格を適度に引き上げる。
<市場開放・外交>
・外資参入を制限する分野を定めた「ネガティブリスト」の項目をさらに減らす。
・東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の早期発効、欧州連合(EU)との投資協定の調印を推し進める。
・中日韓の自由貿易協定(FTA)交渉のプロセスを加速させる。
・環太平洋経済連携協定(TPP11)への加入を前向きに検討する。
・米国との平等かつ互恵的な経済や貿易関係の深化を推し進める。
<環境>
・引き続き外国から固形廃棄物の輸入を厳しく禁じる。
・2030年までの温暖化ガス排出量のピークアウトに向けた行動計画を策定する。
・温暖化ガスの排出権取引市場の建設を急ぐ。
・グリーン/低炭素発展に向けた金融支援特別策を実施する。
<民生>
・感染症のワクチンの研究開発と無料接種を推進する。
・住民基本医療保険の1人あたりの財政補助基準を30元引き上げる。
・土地供給の増加などで賃貸住宅市場を発展させ、若者などが抱える住宅難の解消に最善を尽くす。
<国防>
・軍隊創設100周年の奮闘目標に照準を合わせて、軍隊統治を推し進める。
・安全保障リスクに対応し、国家の主権/安全/発展の利益の堅守のための戦略能力を高める。
<香港・台湾>
・「一国二制度」の方針を引き続き貫徹する。
・香港特別行政区の憲法と基本法の実施にかかわる制度をより完全なものにする。
・国家安全を維持するための法律と執行メカニズムを実施する。
・香港に対する外部勢力からの干渉を断固として防ぎ、食い止め、長期的な繁栄と安定を保つ。
・台湾については平和的な発展と祖国の統一を進め「台湾独立」をもくろむ分裂活動を食い止める。
【出典】2021年全人代の政府活動報告要旨(日経電子版)
2021年3月6日 1:25
ポイントになりそうなのは、
アリババさんやテンセントさんなどの巨大資本を念頭に、
プラットフォーム企業への牽制を複数箇所に盛り込んでいることと合わせ、
国有企業優先を強く打ち出していることですね。
中国経済の牽引は間違いなく民間企業の成長によるところが大きかったわけですから、
そうしたい勢いに陰りが見えてくるリスクも孕みます。
そして香港と台湾について、かなり踏み込んだ方針が盛り込まれていることも気になります。
重視する研究開発7分野
テック企業へ注目をしている先生として見逃せないのが、中国の今後の投資。
2021-25年の5カ年計画で研究開発費を年7%以上増やすと表明しています。
20年の研究開発費が2兆4400億元(約41兆円)で、前年比6%増でしたので、
さらに大幅に引き上げる形となります。
以下、7つの重点分野を挙げています。
①次世代人工知能(AI)
└専用半導体の開発、画像、音声、映像の処理
②量子情報
└量子通信と量子コンピューターの開発
③半導体
└設計ツールや製造設備、材料の開発
④脳科学
└脳の認識原理の解析
⑤遺伝子
└バイオテクノロジー、ワクチン開発
⑥臨床医学
└がんや心臓、脳の疾患の基礎研究
⑦宇宙
└宇宙探査、ロケット、北極南極の調査研究
【出典】中国5カ年計画、研究開発費を年7%増 成長目標見送り(日経電子版)
2021年3月5日 23:00 (2021年3月6日 5:14更新)
政府活動報告要旨でも触れた通り、こうしたテクノロジー投資を進めるのにあたり、
サプライチェーンの整備も今後進めていくと見られており、
海外からの投資と国内の需給強化による「双循環(2つの循環)」モデルや、
TPP11、RCEP、日中韓FTAへの取り組みなど、
米国抜きでの経済連携網をどのように敷いて、成長エンジンとしていけるのかも注目です。
さいごに
21年の成長率目標は6%以上と、国際通貨基金(IMF)の試算する7.9%よりも抑えた数字となりました。
5カ年計画の目標は「合理的な範囲」として具体的数値を明記しなかったこともあり、
全体的には控えめな方針となった印象です。
結局のところ、中国も将来的なパンデミックの動向や米国との経済競争などについて、
不確実性を睨みながら、手堅く着実に進めていこうという姿勢が見えてきますね。
昨年はいち早く新型コロナから経済を立て直したという部分だけに注目が集まりましたが、
個人消費や雇用、民間投資がそれ以前と比べて回復しているかというとまだ道半ばであり、
攻めと守りをどのようにバランス取りしていくのか、中国の舵取りに引き続き注視が必要ですね
では、ごきげんよう。
海外の企業・投資家は香港市場との付き合い方に大きな変化が訪れる。