・国が「残クレマイホーム」の普及を急ぐ理由
・月々の支払いが安くなる裏に隠されたリスク
・「持ち家」が「長期レンタル」に変貌する未来
ごきげんよう、ぺいぱです。
このブログの内容は動画でも解説しています。
2025年もあとわずか。今年は「残クレアルファードを街中で転がすスタイル」がSNSで揶揄されるなど、身の丈に合わない消費の危うさが改めて注目された年でした。しかし、そんな波はいよいよ「人生最大の買い物」である住宅にまで押し寄せています。
背景にあるのは、もはや狂気とも言える不動産価格の高騰。不動産経済研究所によると、11月に東京23区で販売された新築マンションの平均価格は1億2,420万円と、大台の1億円を突破したまま高止まりしています。
首都圏全体で見ても平均9,000万円を超え、過去最高を更新し続けているのが今の日本の住宅事情です。
首都圏を諦めればいくらでも安い場所はある、という声もあるのは事実でしょう。しかし仕事があることとは反比例します。東京に限りませんが、オフィスが密集している首都圏に近い場所でマイホームを持ちたいのは至極当然のこと。
・自身や家族が幸せに暮らすために仕事をする。
↓
・そのためにはできるだけ通勤圏内で家が欲しい。
↓
・それを目指すと一生働き続けなければいけない。
こんな本末転倒な世の中になっているということです。一生働き続けなければいけないこのサイクルを誰かが狙って作り上げているんだとしたら、いやはやお見事ですわ。
さて、こうした「普通に働いてもマイホームに手が届かない」異常事態を受け、政府が普及を後押ししようとしているのが「残価設定型住宅ローン」。ここでは分かりやすく「残クレマイホーム」と呼びます。現時点では詳細な制度設計が確定しているわけではなく、あくまで検討段階の話ではありますが、国が本腰を入れてこの仕組みを推奨しようとする背景には、先ほども触れたような住宅市場の状況があります。
住宅生産団体連合会の調査によると、住宅取得時の借入金平均は、2000年度の2,629万円から、2023年度には5,859万円と、わずか20年ちょっとで2倍以上に跳ね上がりました。年収に対する借入額も2.9倍から5.1倍へと膨れ上がっています。
かつて、住宅金融公庫が「35年ローン」を本格提供し始めたのは2000年だったわけですが、今やそれでは足りず、50年ローンや夫婦二人の収入を合算するペアローンも当たり前に。それでも家賃並みの支払いには到底ならない。そこで国が次に打ち出したのが「最初から完済することを諦める」という、なかなか極端な解決策というわけです。
この残クレマイホーム、具体的には家の代金の一部を「将来売却して返す分」として最後まで支払わずに棚上げし、目先の月々負担を無理やり軽くするものです。本来、住宅価格をなんとかして下げたり、手取り収入を増やしたりを優先して対応すべきところを、ローンの仕組みをいじくり回して「無理やり買えるようにする」という、まさに奥の手。
一見すると高騰しすぎた不動産を庶民でも手が届くようにする救済策に見えますが、果たして本当にそうでしょうか。今回は、この残クレマイホームの光と影を考えていきます。ぺいぱの独断と偏見も大いに含まれますが、ぜひ最後までお付き合いください!
そもそも「残クレマイホーム」とは何か?
具体的な話に入る前に、改めてこの仕組みを整理しておきましょう。簡単に言うと「将来の家の価値(残価)をあらかじめ差し引いて、残りの分だけを分割払いする」という仕組みです。
例えば6,000万円の家を買う際に、数十年後の価値を2,000万円と見積もったとしましょう。
・普通の住宅ローン:
6,000万円全額+利息を返す。
・残クレマイホーム:
残価を差し引いた4,000万円分+利息を返す。
「2,000万円分は後回しでいいから助かる!」と思うかもしれませんが、ここが罠。返済を待ってもらっている2,000万円分に対しても、利息だけは毎月しっかり取られます。結局、6,000万円フルで借りているのと変わらない利息を払いながら、一部元金の返済を先送りにしている状態となります。
返済期間が終わった時には「家を売ってその代金で残りの2,000万円を精算する」ことが前提。もし仮に家が1,500万円でしか売れなかったら、足りない500万円を現金で持ち出さなければなりません。もちろん残債を払えば自分のものにできます。しかし多額の現金が必要ですし、再ローンのハードルも上がる、利息負担も増大するなど、多くの壁があります。
このように「最後は手放す」ことがセットになったローン、それが残クレマイホームです。なお、似たような仕組みに「リバースモーゲージ」がありますが、これは全くの別物。
・残価設定ローン(現役世代向け)
「これから家を買う人」が対象。将来の価値を差し引くことで、月々の「ローンの返済額」を安く抑える仕組みであるのは前述のとおり。
・リバースモーゲージ(高齢者向け)
「すでに持ち家がある高齢者」が対象。自宅を担保に銀行からお金を借り、月々の支払いは「利息のみ」。死後に家を売却して一括返済する仕組み。
残クレマイホームは「最初から最後まで自分のものにならない」という、いわば利用する権利の話。対してリバースモーゲージは「もともと自分のものだった家を徐々に現金化していき最後には手放す」という所有の終わらせ方の話であると言えます。
どちらも共通しているのは、最後には「家という資産」が手元に残らない、という点。かつて日本人が長らく信じてきた「家は一生の財産」という神話が、現役世代でも高齢世代でも、等しく崩壊していることを象徴しています。
「残クレマイホーム」のメリット
ここからは、この仕組みの表面上のメリットを見ていきましょう。最大のポイントは「今、この瞬間の負担軽減」です。
① 月々の返済額を抑えられる
数千万円という「残価(将来の売却想定価格)」を返済対象から外すため、通常のローンに比べて月々の支払いは圧倒的に軽い。50年ローンやペアローンといった「奥の手」を使わずに、都市部の物件に手が届く可能性が出てくる。
② 住宅の「質」が担保される
残価を設定するためには、国が定める高い耐震性や耐久性、そして適切なメンテナンスが条件に。結果として、安かろう悪かろうではない「資産価値の落ちにくい良質な家」に住めると考えることができる。
③ 出口戦略の明確化
「死ぬ時に家を返す(売却する)」ことが前提の設計であるため、子供に負債を残したくない、あるいは老後の住み替えを前提としている世帯にとっては、合理的な選択肢になり得る。
強いて挙げるとこんなところでしょうか。
本来なら買えないはずの層にとって、この残クレマイホームの仕組みは救世主のように映るかもしれません。支払いを未来に先送りし、今この瞬間のゆとりを買う。一見、非常に合理的なライフプランに見えます。しかし「負担が減る」という言葉の裏側に隠されたデメリットも把握しておく必要があります。
「残クレマイホーム」のデメリット
この仕組みは「”マイ”ホーム」という概念を根底から覆すものでもあります。
①「自分のもの」にはならない
残価分を最後に一括で払わない限り、家は自分のものにならない。「利用料」を払い続けて最後は家を追い出されるか、借金だけが残る可能性もある。果たしてこれを「持ち家」と呼べるかどうかは疑問が残るところ。
②「土地価格下落」という最大のリスク
このローンは「将来も土地の価値が維持される」という前提で成り立っている。もし数十年後に地価が暴落していれば、設定した残価と実際の価値に乖離が生まれ、多額の追い金(おいがね)、つまり追加の支払いを請求される「残価割れリスク」が付きまとう。
③「構造的問題」からの逃避
本来、国がすべきは「住宅価格を適正水準まで下げること」や「国民の所得を底上げすること」のはず。しかしこのローンは「高すぎて買えないなら、無理やり買えるように、こんな借金の仕組みを用意しました」という思考停止の策。
こうした残クレの仕組み、スマホ、車とその利用が拡大してきて、いよいよ家も、という流れなわけですが、生活に必要なものすべてがサブスク化していく中、一生懸命働いて支払ったお金の行き先が、自分の資産ではなく誰かの利益として消えていく。庶民の手元には何も資産が残らない構造が加速しているとも受け取れます。
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さいごに
今回は「家が所有できない時代へ:残クレマイホームは希望か地獄か」をテーマに話を進めてきましたがいかがだったでしょうか?
住宅ローンを35年から50年に延ばし、定年後も働き続けるリスクを背負う。それでも足りずにペアローンを組み、夫婦どちらかが働けなくなる、もしくは離婚するといったリスクもさらに負う。それでも足りずついには残クレまで持ち出す。これは、もはや不動産市場が「普通の働き方では手が届かないバブル」にあることを、国自らが証明してしまったようなものです。
残クレマイホーム。名称だけでもかなり香ばしいわけですが、この仕組みは結局、誰が最も得をするのか。これを考えてみましょう。
■不動産会社:
本来なら高すぎて誰も買えないはずの物件を、残クレという「月々の安さ」で包み隠して売り抜くことができる。高騰した住宅価格は維持される。さらに将来のメンテナンス費用までガッチリ確保できる。
■金融機関:
減らない元金から長期にわたって利息を搾り取ることができる。しかも、国が高い耐久性を保証した家を担保に取っているため、これほど安全で美味しい商売はないと考えることができる。
つまり「残価割れリスク」という爆弾を購入者に抱え込ませ、提供側は「高値販売」と「利息収入」という大きな利益を得続ける。こんな捉え方をしてもそれほど大きく外してはないでしょう。
海外からの投機的なマンション購入がより一層、家の買えない状況を混沌とさせている側面も十二分にあるわけですが、本来、需給バランスによる市場原理で下がるべき不動産価格を、なんやかんや巧妙なローンを作り「カンフル剤」とすることで無理やり吊り上げているのが、2025年現在の住宅市場の正体なのではないでしょうか。
皆さんはこの残クレマイホームの話題、どのように受け取られているでしょうか? ぜひコメント欄で感想などをお寄せください!
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ということで、今回も最後までご覧いただきありがとうございました。
所有させてくれない世の中。

